卒業研究レポート
「卒業研究レポート」
卒業研究のアドバイザーとして携わってくださった日出間さんに、宝仙の卒業研究の取り組みをレポートとしてまとめていただきました。
「宝仙学園小学校の卒業研究」
レポート:日出間 真理子(卒業研究アドバイザー 2023/2024)
社会が複雑性を増すにつれ、自ら考え、議論し、納得のいく解を追求する力が重要視されています。それらを支える好奇心や興味関心を育むことにも視線がそそがれています。正解が1つではない問題が増加すると同時に、AIやデジタル技術の進展がその背景にあります。
これらを背景に近年、全国の学校が「探究学習」の名前で新たな学びの形態を研究し進めています。
宝仙学園小学校は2018年からいち早く、「創造探究」というオリジナル教科として取り組まれてきました。学習者にとって楽しく能動的な学びの体験を生み出すことで、社会で活きる創造力を育もうとする教育プログラムです。創造力という言葉には、答えのない世界で答えを自らでつくりだす感性と力を育んでほしいという、学園の想いが込められています。
令和5~7年度は、「みつける、きめる、つむぐ」を研究テーマに「主体的・協働的な学習」を全学年で実施、さらに令和7年度は全学年が「創造探究」プログラムを実施。中でも「卒業研究」と銘打ち、探究活動を9ヶ月間かけて進める6年生は、個々の子どもの「みつける、きめる、つむぐ」を支援する高度なプロセスになります。個々の興味関心を出発点に児童1人1人が自らテーマを決めるためです。
子どもにとって自分の興味関心を「問い」の形に変換し深めることは容易なことではありません。また支援する先生方にとってもそもそも、教えて育むのではなく、子どもの中にあるものを引き出して育むという関わり方のシフトは、並大抵の変化とは言えません。

そんな中、何年もかけてカリキュラムから校内の体制まで1つずつ進化させ、子どもが「自分の興味」に向き合い続けるプロセスにチャレンジされているのが宝仙学園小学校です。
筆者は「応援ミーティング」の導入を通して卒業研究のアップデートに関わらせていただきました。
その過程で、宝仙学園小学校の取り組みは、新たな学びの形態を模索するすべての人々に参考になる歩みだと感じ、今回記事にする機会をいただきました。
学校での探究学習に磨きをかけたい先生方、お子さんの好奇心を大切に思う保護者のみなさまに、是非お読みいただきたいと思います。
探究学習を知っていますか?
探究学習とは、日常生活や社会のなかにある事柄について、自ら探り、解き明かそうとする学習活動のことです。
一口に探究学習と言ってもその深さは様々で、教師が問いを設定し一定の手順に沿って行う形式もあれば、子ども自身が興味を持った事柄を対象物に掲げ、学習の出発点となる問いも子どもたちが自ら見つけて調査・実験を行うという形式もあります。さらには、この問い立て・調査実験・作品や解づくりというサイクルを何度も繰り返しながら、問いをアップデートしていくという、オープンな形式も存在します。
現在の学校教育では、総合的な学習(探究)の時間はもちろん、行事や教科学習などの中でも場面に応じて、さまざまな深さ・形式が使い分けられ、探究的な学びの機会を設けています。
宝仙学園小学校の「創造探究」
宝仙学園でも、様々な探究的な学習の機会が生み出されてきました。小学校年齢の子ども達が、結果だけでなく探索手順や試行錯誤のプロセスも含めて考える活動は、近年の様々な潮流の中でも意欲的な取り組みだと感じます。
例えば3~4年生の探究学習では、2泊3日の夏季学校の旅程の中で、自分が見つけたいものを自ら考えるという活動を取り入れました。4年生の廊下の掲示板には、夏季学校で取り組もうとしている活動内容が、イラストつきで、それぞれの子ども達によって描かれています。ある虫好きの児童は、「⚫︎⚫︎⚫︎という昆虫をみつけたい」と書いていました。
この段階では、子どもたちが自らの興味に自分自身で光を当てること、そしてそれを基に自ら活動内容を考えてみることが重要視されています。
5~6年生になると行事だけでなく教科学習の中でも、プロジェクト型の探究学習がはじまります。
課題設定や問い立ては教師が行いはっきりさせたものを提示しますが、その探索や試行錯誤のためのプロセスデザインは子ども達が行うという点で、チャレンジングな活動です。
ちなみに1〜2年生の低学年でも、自分の「好きなもの」を見つける活動を日々にちりばめ、探究的な学習に慣れ親しむ取り組みが始まっています。
創造探究を支える先生方のあゆみ
令和5・6年度は、「みつける、きめる、つむぐ」をテーマに全学年の先生方が創造探究プログラムの実施に取り組まれました。教育活動をつくる際のみならず、振り返りにおいても「みつける、きめる、つむぐ」の視点を共通言語として持ち、そこから学び取ったことをすぐに実践に活かして授業改善につなげようとされています。
学習者である子ども達の進捗や興味関心、悩みを把握し、適切なタイミングで問いを投げかけて思考を促す探究学習の循環的なプロセスにおいては、伴走する先生方も振り返りと授業改善の習慣を持つことが重要です。その意味で宝仙学園小学校は、とても意欲的で適切な取り組みをされていると感じます。起こったことから日々学び取り、発展的に軌道修正をすることが出来るからです。
そして、何年もかけて
・卒業研究の進め方
・個別探究を支える学校側の体制(システム・マンパワー)の整え
・創造探究をつくり・実践し・振り返り・さらにつくる先生方のチームづくり
・そして1〜5年生の「PBL・探究」のカリキュラムの研究と積み上げ
と1つずつ進化させ、子どもが「自分の興味」に向き合い続けるプロセスにチャレンジされてきました。

いよいよ「卒業研究」
そんな6年間の集大成が卒業研究です。「6年間宝仙で身につけた知識や技術をフル活用して12歳の自分を精一杯に表現しよう」。そんな呼びかけから9ヶ月間のプロセスがスタートします。
子どもたちが自分自身を掘り下げ、12歳という時点での「興味・関心」に基づいて自分自身を最大限に表現することが期待されています。
最も大切にされているのは、子ども達自身が自分に誇れる研究であること。その一環として、探究する過程が重要視されています。例え結果が思い通りにいかなくてもそれはOK!誰かに評価判断されるような機会も一切つくられていません。そのような環境下で、子どもたちの自主性と創造性を育もうとされています。
「みつける」の難しさ
創造探究のテーマ「みつける、きめる、つむぐ」の中で、特に重要で、かつ容易ではないのが「みつける」の段階です。筆者も小学校から大学まで様々な学びの場で子どもたちに関わってきましたが、多くの子どもたちがこの初期段階で苦戦しています。
なぜなら、誰しも経験があると思いますが、自分のことは自分が一番よくわからないことが多いからです。
7月から3月という長期間をかけて取り組む卒業研究では、自分が本当に関心のある分野を「みつける」ことはとても重要です。全米でも屈指のProject Based Learning(課題解決型学習)を誇る公立校High Tech High(カリフォルニア州サンディエゴ)でも言われているように、「重要なのは、アイデアについて興奮していることです。〜中略〜 もちろん、プロジェクトの要素は興奮だけではありませんが、情熱を感じるもので始めないと、プロジェクトがつまらなくなり、作品の質にも影響が出ます。」(引用:「大事な仕事〜教師向けプロジェクトベース学習の手引き」)
子どもたちに「好きなことに取り組んでいいよ!」と伝える際、調べたり実験したりすることに悠々と時間をとることは考えても、「好きなこと」自体をみつけるまでのサポートが必要だとは、あまり想像しないかもしれません。

この過程では、いわば「鏡」のような支えが求められています。子どもに寄り添い、彼らの声や内面に宿るもの、背後に見え隠れするこれまでの経験・学び・生い立ちに目を向けることが求められます。サポートする人は感性を研ぎ澄まし、読み取ったことを鏡のようにして子どもたちに伝えます。その中から子ども達は「好きなこと」を「みつけて」いくのです。
宝仙学園の先生方とお話ししていると、教師はその「鏡」のプロフェッショナルであると感じることがよくあります。毎日共に過ごす中で、子どもたちの人柄や変化、経験を覚えていて、それらを統合した上で、子どもへ伝えるべきことを還してあげる。そんな営みをこれまでも続けてこられました。
一方で、子ども1人1人が個別に行う探究学習においては、そんな先生たちも課題に直面せざるをえません。「問い立て・調査実験・作品や解づくり・さらなる問いだて…」という探究学習のサイクルを何度も回せるようサポートしたい思いはあるけれど、何十人がまったくもってそれぞれなテーマで研究プロセスを進めている中、個々の試行錯誤に寄り添い鏡になるには、圧倒的に時間が不足しているという現実です。
そこで宝仙学園小学校では「応援ミーティング」という、探究学習を充実させるための仕組みを作りました。
応援ミーティング
2023年11月29日、集まった6年生と保護者30名でホールはいっぱいになりました。
応援ミーティングとは、子どもが自身の興味関心と研究計画について2~3分の短い発表を行い、それを聴いた4~5人のグループで「ブレスト」を行い知恵を出し合う、1時間30分の場です。グループには同級生と共に大人ファシリテーターがいて、発表した子どもが決めたテーマについて「いいね」「おもしろいね」と応援することから関わり始めます。そして「もっとおもしろくするには、こんなのどう?」と研究を充実させるための知恵を子どもと一緒になって出し合います。
NPO法人ETIC.が取り組む「Beyondミーティング」(課題解決や新しい価値創造に挑む人を全力で応援するイベント)のノウハウに影響を受け、探究的な学習に応用した取り組みです。
宝仙学園小学校では、学校の呼びかけに応じて集まった「保護者サポーター」30人が各グループのファシリテーターとなります。卒業研究をする6年生の保護者だけでなく、1年生から6年生まで学年を越えた父母のみなさんが集まりました。みなさん社会人であり地域で生きる人としての経験を携えて参加します。

父母の皆様には事前にはレクチャーをし、「いいね!」や応援メッセージから会話を始めることや、指摘や批判と言うよりも質問から入って、子どもが真に興味のあることを、子どもと一緒になって探っていくといった、謂わばコツのようなものをお伝えしました。
初めてファシリテーターを務めることにドキドキしている人もたくさんいらっしゃいましたが、椅子を持ち寄り4〜5人の円を作れば徐々に、子どもとファシリテーター互いの熱量が電波していきます。保護者の皆様は、1人の子どもの探究テーマを自分ごとのように考えていたことが印象的です。
保護者がサポーターとなって、子どもと情熱を「みつける」
応援ミーティングは、保護者にとっても刺激的な時間だったようです。
『子供達とのミーティングを行う前は、ちゃんとサポーターとしての役割が果たせるのか、と心配でしたが、始まってみると、私自身、とても楽しい時間となりました。子供達から出てくる研究内容は私の想像を超えるものばかりで、えー!すごい!!なんで?どうしてそう思ったの?確かに悩むよねー、、、どうしたらいいかな?そんな言葉しか出てきませんでしたが、、私自身、子供達と一緒に悩むことで、いろいろな視点で物事を見る大切さを改めて実感しましたし、探究心を持っていると人生が豊かになり、より楽しいことが増える、、そう感じました。卒業研究を通じて、これからも探究する面白さやワクワクする気持ちを大事にして欲しいと思います。3月の卒業研究を楽しみにしております。ありがとうございました。』(1年生保護者 母 2023年度)
子ども達も、「私の探究テーマに興味を持ってくれた!」という実感を得ることができているようです。ある児童の感想には
『卒業研究を通じて、たくさんのことを学びました。テーマを選ぶところから始まり、調査や実験、まとめて発表するまでの過程は、とても大変でしたが充実していました。特に、仮説を立て、実際に調査・実験を行って結果を分析する過程は、新しい発見の連続で楽しかったです。また、友達や先生、保護者の協力もあり、無事に研究を終えることができ感謝しています。この経験を通じて、自信と達成感を得ることができました。』
とありました。「興味を持ってくれた!」という感覚は、自信を持って研究を進める土台になります。
また「研究をもっとおもしろくするなら、こんなのどう?」ともらった知恵は、探究活動を前に進める具体的なアイディアにもなります。単純にアイディアを提供するのではなく、子どもがなぜその研究を始めたのか、どうして関心があるのかにアンテナを張って対話をする中で、グループの他の子ども達も一緒になって考えるようになります。この一連のプロセスを通して、子ども達の卒業研究を応援します。
普段とは雰囲気を変えた場づくりの効果
そして保護者や、外部からの協力者である筆者のような人間が入る効果は、もう一つありました。3〜4時間目を使った応援ミーティングの冒頭で、筆者は子どもたちにこんな呼びかけをしました。
「今日はみなさん、ザワザワしましょう!お父さんお母さんも来ていてみなさんピシッと背筋が伸びると思うけれど、だいじょうぶ!今日はザワザワしていいんです!」
「みなさん “ブレスト脳” って知っていますか。」「いつも使っている順序立てて論理的に考える力 ”クリティカルシンキング” は、この時間はくしゃくしゃっと丸めてポイっとしていいです。今日は頭の使い方を180度変えてみます!」
この呼びかけを聞いた時に「ニヤッ」と笑った子ども達の顔が私は忘れられません。子ども達の解放されたエネルギーをそこに見た気がしました。自らの内面に宿る声、これまでの経験や学びに目を向け、情熱を感じるものを探す準備が整った顔だと感じました。
この関わりは、普段社会生活・集団生活においての秩序を伝える役割も担っている先生方には難しい場合もあるかもしれません。普段の関係性の外にいる保護者・外部協力者であるからこそ「ザワザワ」することを奨励できます。
直線的な思考ではなく、探究学習のような不完全なアウトプットを繰り返し行い、試行錯誤の中で自ら意味合いを見出していく行為は、「ザワザワ」の中から生み出されます。
中間発表会で切り拓く
2月になると、受験期を終えた子ども達は、4週間の卒業研究集中期間に入ります。その期間の真ん中に設けられた中間発表会にも、興味関心に注意を向けて1人1人の話をじっくり聴くという型は引き継がれました。
「探究スパイラル」のスタート期だけでなく、中間期・停滞期においても、興味関心に注意を向けることで場面は切り拓かれていきます。2つの側面がありました。
①停滞していたプロセスが再び動き出す
探究学習では誰もが足踏みを経験します。それは、テーマ設定/計画・素材集め/実験・検証・データ収集/まとめ、プロセスのどこでも起き得ることです。例えば、以下のようなケースです。
テーマ設定
➢「〇〇とは何か?」のような、調べればすぐに答えが見つかる問いを立ててしまい、分析や考察に進めなくなっている
➢「世界平和を実現するには?」のような壮大な問いを立ててしまい、どこから手をつけていいか分からなくなっている
素材集め
➢テーマがニッチすぎて情報源がなかったり、逆に情報が多すぎて何が重要かの判断が難しい
➢集めることに必死になり、「何のためにこの情報を集めているのか」という目的を見失ってしまう
実験・検証・データ収集
➢インターネットや本で情報を集める中で、いつの間にか情報を集めること自体が目的になってしまい、それらが何を意味し、どんな結論や仮説が導き出せるのかが分からなくなっている
まとめ
➢最初に立てた仮説を大切にするあまり、それに合わない情報を軽視してしまい、大元の問いに対して適切な考察になっていない
➢実験・調査した内容をどう整理し、一貫したストーリーとして構成すれば良いか分からなくなっている
これらは探究学習を進める上で、自然と多くの子どもが経験することで、次の一歩に進むためのサインの表れとも捉えられます。そのような時、「なぜそれを探究しようと思ったの?」「そのテーマの、特にどの部分に興味があるの?」と投げかけることによって、自分がなぜこのテーマに関心を持ったのかに今一度立ち返るような支援は、とても役に立ちます。

中間発表会でフィードバックを担当した約10名の先生方は、子ども達の返答を受けてさらに、興味関心を具体的で探究しがいのある「問い」へと深めていました。
前述の最初のケースでは、問いの例を示し、子ども本人が問いにしっくりくるかを話し合うなどして支援します。情報の海で溺れている時には、原点に立ち返り「この情報は、自分がこのテーマに関心を持ったそもそもの理由に応えているか?」と考えてみることが出発点になります。他者からの質問やフィードバックそれ自体が、自分では気づかなかった視点を得る機会にもなりました。
こうして探究が再び動き出す様子がたくさん見られました。教頭の百瀬先生が子ども達に繰り返し伝えていた合言葉「探究スパイラルをもう一周回そう!」も、こうして実際に力強く1人1人の背中を押すことによって、実現しているように感じます。
②自分ならではの研究対象・研究プロセスを切り拓く
今年は「推し活」や「オタク」について研究した児童が3人いましたが、うち2人にそれぞれ「発表する時、見ている人に同じ気持ちになって欲しい?それともとことん突き詰めたい?」と投げかけると、それぞれに違う答えが返ってきました。
一人は「何かをすごく好きになる事で心を動かされるという意味では、スポーツ選手も推し活も同じだと思うんです。自分は元々オタクじゃなかったからこそ、オタクや推し活についてのイメージを変えたいんです。」と語っていました。彼女のテーマは「オタク心を解明しよう」になりました。
もう一人は「私の推しキャラクターがアニメの中で困難を乗り越えている姿を見ると、自分の身の回りで起きるトラブルが小さなことに感じられて元気をもらいます。その経験から、推しがいることでの心理的な影響、特に抑うつの軽減に興味を持って、研究してみたいと思いました」と答えてくれました。彼女のテーマは「推し活動と精神的な関係性」になりました。
探究した先に、自分自身や自分以外(社会)に何をもたらしたいか、どのような変化を期待しているのかは人によって様々です。
共感を呼びそのテーマ自体の社会的認知を広げたいという場合もあれば、自身の「なぜ」という気持ちをとことんまで突き詰めたいという場合もあります。社会に出れば、前者は人々の集団的・組織的な行動を促す営みに繋がり、後者は物事の根源や真理を解明したいという知的好奇心で新たな扉を開く人々の営みに繋がります。人によって向かう方向性が違う、その違いがこの社会をより多様で豊かにしていると言えます。
宝仙学園小学校の卒業研究においても、それぞれの個人のこれまでの経験や学びの中で、自分ならではに育まれたアンテナが活かされていました。このアンテナに照らして問いの方向性を決めていくことで、自分ならではの研究対象・研究プロセスを切り拓くことができるようになります。
最終発表会
2月28日に行われた最終発表会。やりきった!という晴れやかな表情をしている子もいれば、悔いが残る様子の子もいました。
印象的だったのは、そのどちらの様子の児童にも、研究はこれで終わらないと感じさせる様子が見えたことです。興味関心が深まり、中学生になってからもテーマについて少しずつ追い続けてみたいとコメントをしている子ども達もいました。

そのようなジワジワと炎を温めるような環境が卒業研究のプロセス全体を通して散りばめられていましたが、最終発表会での「付箋コメント」もその一つです。発表した本人へ、同級生はもちろん、見に来ている5年生や保護者や先生からも、可愛らしい付箋に書き込まれた感想やフィードバックが個別に手渡されていきます。そこに書かれたメッセージはどれも、これまでの健闘を讃えるとともに、今後の歩みに応援を送るような言葉に満ちていました。見る人には、評価・判断するような言葉はまったく湧き上がってこないように見えました。

こうして最後まで「応援し合う」スタンスで子どもも大人もごちゃまぜになって関わる環境が、1人1人が12歳の自分にじっくりと向き合い表現する鍵になっていたのではないでしょうか。その先に、自ら探り解き明かそうとするような、自主性と創造性が育まれ始めていることを確信しています。

卒業研究のプロセスを1年通して引っ張ってこられた教頭の百瀬先生は、仰います。
『聴き合い応援し合うことを通して子ども達は、卒業前に関係性を再構築していると感じました。自分の関心のあるテーマをじっくり聴いてもらえたという経験を通して、友達や先生、最終発表会では保護者の方々や後輩にも大事にされているという感覚を持ったと思います。一人一人異なる存在でありながら、それを認め、一緒に楽しんでくれる人々がいることを感じることによって絆を一層強く感じるのではないでしょうか。卒業研究には、学びを後押ししている以上のものがあると、今年も改めて感じました。」
間違いなく、知識・技能だけでなく、自己理解・関係構築・社会認識といった事柄も含んだ、小学校6年間の集大成の1つになっていると感じます。
